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THEATER CIEMA 演奏会
イベント概要
このイベントは、2部構成で2016年の1月23日に開催された。当日は15名の参加者を迎え、1部で音楽と地域活性化について、2部でフルート・ギター演奏会を設定し、参加者トの意見交換を交えながらの進行となりました。地域活性化(=ヒト・モノ・カネの域内循環を活発にすること)を図るためには大型商業施設に流れている客を中心市街地に呼び戻したり、中心市街地に訪れる客の回遊率を高め、滞在時間を長くする必要があります。地域住民を中心市街地に惹きつけ、滞在時間を長くしてもらうためには、新たな交流拠点を創出することが有効なのではないかと考えるに至りました。このように「THEATER CIEMA 演奏会」は上記を目的として企画されました。
先行研究・事例
モレッティ(2014)によると、人々の地元志向はきわめて強いという事実があり、実際特許申請者が自分と同じ市内で生まれた特許を引用する確率は他の都か市の引用の2倍に達するといいます。仕事の場に限らず、地元のカフェや社交イベントといった私的な会話や接触によって地理的に近い場所の人が生み出した知識に触れる機会が多いからだとみなせそうです。また、橋本・山中編著(2009)によると、「場は対話に先行する」ともいわれ対話が始まるには必ず場が先だって成立していなければならず、物理的な部屋ではなく、雰囲気も含め会話を促すような対話の場を成立させることで生活環境が快適になりうると考えられています。
このように私的な空間で触れた知識が仕事上の思考にも影響を与えることや、雰囲気といった居心地の良さを兼ね備えた私的な空間を先立って用意する必要がありそうです。交流を促すよな交流拠点を提供することで仕事や暮らしに良い影響を与える可能性が大いにあると考えられます。それでは、そういった交流拠点があることで、仕事や暮らしに良い影響があることの事例を見てみましょう。
国外の事例として、シリコンバレーのカフェにおける人々の交流がイノベーションに繋がっていることがあげることができます。アメリカのカリフォルニア州といわれる地域には半導体メーカーをはじめとして多くのIT関係の企業が集まっています。シリコンバレーにあるカフェにはそこで働く多くの技術者たちが仕事の合間に訪れるが、同じ職種で同じ技術者である客同士は初対面であっても次第に話が膨らんでいき、カフェで知り合った人と仕事に繋がる関係が築かれることもあるのだといい、これは交流拠点の創出という点で非常に良い例です。
また、日本国内においても良い事例が挙げられる。個人ブログ(越澤明と都市政策、歴史・文化のまちづくり、日本再生)の記事ではあるが、大分県別府市に存在した「サロン岸」です。サロン岸のオーナー岸川多恵子さんはもともと、別府市で街作りに関する活動を行っており、お店でも「岸ママ」の愛称のもと多くの客から親しまれていました。そのうち、別府市でまちづくり活動をしている人々がサロン岸で意見交換をすることが多くなり次第にまちづくり活動に携わっている人々が県外といった遠方からも訪れるようになった。また、岸川さんはまちづくりの溜まり場としての機能はサロン岸のような多目的に活用できる場所提供が必要であるといいます。これもまた、交流拠点の創出であるといえるでしょう。
上記の2つの事例に共通していることは、集まった客の交流のきっかけは「共通の話題」が存在していることです。そのため、私たちは新しく交流拠点を創出するためには場所だけでなく、同時に共通の話題も提供する必要があると考えました。今回のイベントでは、佐賀市の中心市街地の南側に位置するミニシアターであるシアターシエマと連携し、場所をご提供いただきました。その上で共通の話題を「音楽と地域活性化」と設定し、プロのフルート奏者の榎本祐子さんとプロのギター奏者の近藤史明Ⅲをお招きし、トークと演奏会からなるワークショップという形で開催しました。イベントの参加者には、ワークショップや音楽イベントについてのアンケート調査を行い、参加者がどのような嗜好や意思決定をしているのかを知るための情報収集を行いました。
アンケートデータ分析
イベント参加者15名の内訳は男性が9名、女性が6名でした。参加者の年齢分布は21~30歳が男性5人・女性が1人、31~40歳が男性1人・女性1人、41~50歳が女性1人、51歳以上が男性3人・女性3人、10代参加者はなしという結果になりました。今回のイベント実施にあったって佐賀県庁や博物館などでチラシやポスターを設置するだけでなく、より若者の目に触れる場所で広報活動を展開すべきであったという反省があげられた。
図Ⅰはシエマを利用する頻度を円グラフで表したものです。「今回が初めて」が最も多く、私たちの音楽演奏イベントを目的として来てくだっさったお客様が多いことが分かります。このことから音楽演奏イベントは一定数の需要があり、今後も集客が見込めるイベントなのではないかと考えられます。
今後の音楽イベントに関するアンケートでは、音楽のジャンルと楽器に分けて参加者のニーズをみていきます。ジャンル別では「ジャズ」が最も多かったです。シエマの雰囲気には「ジャズ」が一番似合うのではと感じ多人が多かったのではと考えられます。また、音楽別では「バイオリン」が多く、次いで「声楽」、ピアノが同率2位でした。その他の意見では、「三味線」や「チェロ」といった珍しい楽器の回答もあり、他にはない独自のイベントの需要も考えられます。
考察
今回、私たちが実施したイベントとその参加者のアンケートデータの集計· 分析を通して、イベントやワークショップを開催しそこに参加者が集まるという新たな流れは、参加者の行動範囲を広げるという点や新たな交流拠点を創出するという点で多くの可能性があると考えています。一方で、 交流拠点の創出において大切なことは、日常的にその空間が存在しさらに雰囲気や参加者の見た目や人柄といった参加者の欲求を満たせる環境が整えられていることです。 そのための理想は、こういったイベントや仕掛け作りを継続することであり、それが地域活性化に繋がっていくものと考えられます。その意味では、私たちの今回の活動は交流拠点の創出のきっかけ作りであり、参加者に交流の楽しさを実感してもらう場の提供という位置付になると思います。 参加者のアンケート調査の結果から、普段の音楽イベントの少ない佐賀県でも音楽に興味を示す人は多く、 音楽イベントの開催による地域活性化の可能性も大いに考えられます。今後も佐賀の中心市街地活性化において、その可能性を広げていけるような活動を継続的に行っていきたいです。