NO1.
<Let’s make Sicilian Rice & Dried persimmon>
イベント概要
このイベントは外国人留学生を対象として2018年11月17日(土)に開催されました。道の駅「大和」のそよかぜ会館という場所を提供していただき、佐賀市のご当地グルメであるシシリアンライスと干し柿を作りました。シシリアンライスの材料は、道の駅「大和」で地元の野菜を購入し使用しました。また、そよかぜ会館周辺の川辺を利用した川遊び体験も行い、内容が盛りだくさんのイベントとなりました。シシリアンライスを作るにあたり、外国人留学生を対象としているため普通のシシリアンライスを作るのではなく、ハラル食材を使ったオリジナルのシシリアンライスを作りたいと考えました。そこで、私たちは「佐賀市はシシリアンライスdeどっとこむ」=通称「シシこむ」と呼ばれている佐賀のご当地グルメであるシシリアンライスを通じて佐賀を元気にしたい!っと活動しているボランティア団体に協力をお願いしました。ハラル食材を使ったシシリアンライス作りは「シシこむ」にとっても初めての取り組みであったと同時に面白い挑戦であったでもあったため、「シシこむ」と連携して準備を進めながら、無事に当日を迎えることができました。
調査・研究目的
ここ数年では、外国人観光客が増加しており、「体験型観光」へ需要がシフトしていることが考えられる。そのため、今後は地域独自の資源を活用した「体験型観光」を取り入れていくことの重要性がさらに強まると予想される。また、我々は佐賀の「食材」に関して、外国人留学生の感じる魅力を知っておきたいと思い、食材調達、調理、実食に至るまでを実体験してもらうことで、そのイベントを通じて何が評価されているかを知るための聞き取り調査形式のアンケートを行うこととした。このアンケート調査で得た内容をもとにデーターベースを作成し、第一に、日本人と外国人留学生の感覚の差異などを示しながらその実態を把握する。第二に、階層分析法(AHP)による分析によって、意思決定を可視化し、何に重きを置いてるかを明らかにする。これらの分析結果をもとに、佐賀の交流人口を増加させる何らかの地が借を提示していきたいと考える。
先行研究・事例
先行研究として、2014年度に本研究室が実施した研究成果(佐賀大学経済学部亀山ゼミナール)の中から多文化共生を取り上げる。当該研究では、階層分析法(AHP)と地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を用いて、留学生を対象とした調査しており、留学生にとって直売所や道の駅の認知度が低い一方で、留学生を対象とした調査を実施しており、留学生にとって直売所矢道の駅の認知度が低い一方で、留学生が日本人学生よりも自炊を多く行うことが調査を通じて示されている。また、留学生が日本人と比べて買い物の際に自炊の回数が増えるほど、安さを重要視することや購買範囲が広いことが示された。一方で、当該研究においては以下の課題点があると考えられる。第一に、留学生の「具体的な所得金額」が調査されてないことがある。第二に、当該研究のアンケートで用いられた評価基準が「品質」「近さ」「安さ」の3項目であったが、このうち「品質」の内容があいまいであった。これらの2点が課題点であるため、改善していく必要があると考えた。
これらの課題点に付け加えて、近年の来日外国人の国籍のけんかを考慮していく必要があると考える。イスラム教徒の観光客は勿論のこと、日本国内に留学する人や研修生として来日するイスラム教徒が増加しており、ハラル問題の中でも宗教上の食の問題が注目されてきている。今後国内でも牛肉等の販売方法が変化していく可能性があるが、その際に販売者側は実際にハラルの方々がどのような購買活動を行うのかを知っておく必要がある。先述の2014年度の先行研究(佐賀大学経済学部 亀山ゼミナール 2015)においては、ハラル問題については取り上げておらず、イスラム圏の人々がどのような購買活動を行うかについては明らかにされていなかった。また先述したように、当該研究において留学生にとっての「品質」の基準や「具体的な所得金額」に関して課題が残っていた。
以上のことより、留学生及びハラル等によって宗教上食べることのできないものがある外国人が所得金額の違いなどによって、購買行動や観光行動にどのような変化がみられるのか調査を行うことは意義があるのではないだろうか。また先行研究では留学生にとっての直売店とスーパーなどの店舗に関してそれぞれどのような印象を抱いているかが明確ではなかったため、その点に関しても購買活動に繋がるのではないかと考えて注目することにした。
アンケートデータ分析(AHP)
今回のアンケート調査ではAHPを使って、「体験観光をする際、何を重要視するか(図Ⅰ)」「食材(野菜・肉)を購入する際、何を重要視するか(図Ⅱ・図Ⅲ)」という課題を設定し以下で示す評価基準と代替案のもと回答してもらった。以下がそのAHP階層図である。
代替案を選択する際の評価基準として「アクティビティ」、「食事」「お土産」を設定している。「アクティビティ」とは回答者自身ができる遊びや体験を、「食事」はその訪れた場所で食べるものを、「お土産」とはその訪れた場所限定で買えるものを、それぞれどれだけ重視しているかを調べ、参加者が体験観光に求めることを調べるために設定した。
代替案を選択する際の評価基準として「お手頃感」、「信頼度」、「品揃え」を設定している。これは、参加者自身やその家族が食べるものとして何を一番に重視しているかを調べるために設定した。
代替案を選択する際の評価基準として「情報の可視化」は生産元やどのような過程を踏んで販売されているかがわかるか、「商品の希少性」は肉が対象であるため、希少的な肉や部位などが販売されているか、「新鮮さ」は加工から販売までの間が短く新鮮かどうかを、それぞれどれだけ重視しているかを調べ、ハラル問題や生産元の信頼性などを踏まえたうえで、参加者が何を重視して肉を買うかを調べるために設定した。
AHPの集計結果
図4、図5、図6は今回のイベントでのAHP集計結果である。今回参加者は24名で、1名AHPに関しての回答なし、1名肉購入のみの回答となっていた。まず図4では「遊園地やテーマパーク」、 「様々な店舗の並んだ商店街」、「古民家や昔ながらの建物がある田舎」のどの項目においても「アクティビティ」が最も高いということが分かる。このことから「アクティビティ」はどの観光場所においても重要視されやすいポイントであることがわかる。また「様々な店舗の並んだ商店街」において「食事」の項目がほかの代替案よりも割合が多いものの「アクティビティ」の項目でそのほかの代替案よりも下回っていることで「遊園地やテーマパーク」に差をつけられている。このことからも「アクティビティ」というポイントが体験観光をする際に、いかに影響しているかがうかがえる。
次に図5を見ると、「信頼度」は販売場所にかかわらず重視されやすいポイントであることがわかる。また、「お手頃感」、「信頼度」に差がみられるが、 「品揃え」に関してはほとんどの差がないことから、野菜に関して品揃えがほとんど影響しないということが考えられる。
最後に図6を見ると、肉購入に関しては「直売所」を好む人が一番多いという結果が出ている。評価基準においては、 「新鮮さ」の項目で直売所を選択する傾向があり、その他の「情報の可視化」と 「商品の希少性」の項目に関しては、 「新鮮さ」のような大きな差はないが、この2つにおいては、「スーパー」が高い評価を得ている。このことからどの販売所においても「新鮮さ」が重要視されることがわかる。しかし、今回のアンケートを作成した際に「直売所」が一番好まれるという予想がなく、 今回の結果に違和感を覚えていたが、おそらく野菜などの「新鮮さ」に影響されたのではないかと考える。そのため、「新鮮さ」をなくした2項目での評価では「スーパー」が選択されるという結果が出る。だが「新鮮さ」が求められているという事実は変わらないため、肉の購入の際「新鮮さ」が重要視されやすいポイントではあるだろう。
まとめ
AHPの分析の結果、全体集計において体験観光では「アクティビティ」が重視されており、この項目で他の代替案に差をつけた「遊園地やテーマパーク」が選択される結果となった。野菜の購入では「信頼度」、肉の購入では 「新鮮さ」がそれぞれ重要視され、これらの項目の高かった直売所が選択されるという結果になった。その一方で、各代替案において重視する要素は分類の仕方によって大きな差異が見られ、属性ごとに意思決定の傾向が異なるという結果となった。今回、我々が実施したイベントを通して一番に感じたことは、日本人、外国人との感じ方の差異である。このイベントを実施することになったきっかけもその差異にあったが、改めてイベントの中で留学生参加者と触れ合うことで、新たな発見も数多くあった。また、国籍のみに関わらず、同居人数、宗教、可処分所得、性別の属性をもとに分析を行うことで、 その属性により観光·日々の買い物に対する考え方に傾向がみられることも分かった。このイベントは、参加頂いた留学生が新たな日本の文化を知ってもらえる機会になったことは間違いないが、我々にとっても留学生などの外国人を対象にイベントを行うことの楽しさ、難しさを味わえることができる良い機会となった。現代、インターネットが普及し、知りたい情報は迅速に得られる社会になっているものの、互いの慣習·文化など知らない部分を未だに大きい。外国人居住者·観光客が増加の一途を辿っている今、 このようなイベントを通して日本人、 外国人の交流の場を持つことはより有意義になっていると我々は考える。