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フォトレジャーハント2017~佐賀市の風景を見つけよう~
イベント概要
このイベントは、2017年11月19日に佐賀市のバルーンミュージアムを会場として開催された。佐賀市の魅力を参加者に発見してもらい、それをSNSで発信してもらう自転車ツアーで、こちらで写真と地図を参加者に渡し、それを参考に写真の景色を探して、写真を投稿するという内容でした。また、このイベントでは佐賀市観光復興課と連携しました。
調査・研究目的
今年度、我々は、佐賀市観光振興課と連携して、訪日外国人も参加でき、自転車を使い、情報発信を伴う企画ツアーを考えることになりました。具体的には、佐賀の小さな観光名所を回ってもらい、ツアー参加者自身で佐賀の良いところを探してもらい、それを SNS で発信してもらう自転車ッアーを企画し、実際にモニターツッアーを行いました。そして、このイベントへの参加者と非参加者を対象としたアンケート調査を実施し、1)仮想評価法(CVM:Contingent Valuation Method)によって支払意思額を求め、また、2)備品や、会場費、人件費などの実際にかかった費用を計算して、我々が企画したツッアーの金銭的価値を計測したいと考えました。
先行研究・事例
アジアからのインバウンドの増加に伴い、彼らの旅行行動は大きく変化しています。具体的には、「モノ消費」から「コト消費」への変化、購買目的から体験目的へ変化していること、団体旅行から個人旅行へ変化していること、都市部から地方部へ旅行者が流出していること、リピーターが増加していることなどが挙げられます。菱田·日比野·森地(2011、2012)は、特にリビピーター個人間の訪問地選択肢が極めて多様になり、また、その周遊が初訪問旅行者より低くなることを示しています。リピーターを増やすことは観光収益の面で重要な要素であり、それはどの地域にもあてはまります。近年、佐賀市でも、前述したインバウンド動画やサイクルツーリズムの試験的な導入など、広範囲な周遊を減らし特定の地域で長く滞在させ、外国人旅行者の行動の変化に合わせた環境作りを行っています。我々の考えたツアーも、佐賀市の目指す「ゆっくりとした観光」に適していると考えたため、CVM を用いて評価したいと考えました。CVM には「プロジェクトの評価」と「景観の評価」の二つの側面が存在します。高瀬·涌井·小山(2011)は長野県における地方鉄道の路線存続に関して、CVMを用いてその価値評価を示しました。この調査では廃止を回避した路線、廃止が決定した路線、早急に検討する必要のある路線を比較し、やはり廃止が決定した路線は価値評価が低いことが判明しました。これは「プロジェクトの評価」にあたります。
一方で牛房(2014)は、CVM を用いて門司港レトロ地区の景観に関する支払意思額をもとに、景観の金銭的価値の計測を試みています。門司港レトロは、行政、市民共に評価の高い観光施設であったが、飲食·物販施設の不足、駐車場·トイレの不足などが原因で、観光客が長時間留まらず、他の観光地へ移動し、通過型の観光地という問題点が浮かび上がってきました。そこで、CVM を用いた街頭アンケートを行い、景観に対する評価は約 26億円であるという結果が表れました。門司港レトロの景観を整えるのに 600億円を超える費用をつぎ込んでいることを考えると、低い評価額であることが判明しました。これが「景観の評価」にあたります。この二つの側面を合わせることで「市街地の景観を利用した観光」に対しての評価が可能になります。我々もこの方法を用いて導き出した支払意思額から、佐賀の街で自転車ツアーを行うことの価値及び佐賀の街の景観価値を評価し、また、実費用などを計上した上で企画したツアーの妥当な価格を知ることで、実際に開催可能か評価したいと考えました。
アンケートデータ分析
今回のアンケート調査では、CVM によって回答者に今回企画したイベントに参加することを想定してもらい、このツアーイベントの参加料金の支払意思額を分析できるように調査項目を設定しました。今回のアンケート調査では、 栗山拓植·庄子(2013)に基づき、CVMの中でもシングルバウンドの二肢選択形式を用いて質問を設定しました。アンケート調査は A、B、Cの3パターンを用意し、パターンAでは3000円を、パターンBでは4000円を、パターンCでは5000円を提示し、イベントに参加したいかどうかを尋ねました。 また、どの設問でも参加したいと答えた人にはいくらまでなら参加しようと思えるか、参加したくないと答えた人にはいくらなら参加しようと思えるかという質問をしました。この CVM の設問に関するフローチャートは以下、図1のとおりです。
次に参加者と非参加者によってこの分析結果にどのような差がでるのか検証します。アンケートデータに基づく参加者のみのロジット推定の分析結果から、提示額の対数値 In(Bid)の係数の符号がマイナスなので、このイベントは効用を増大させると同時に提示額の対数値が大きくなると回答者の効用が低下して Yes 確率が低下することを示し、支払意思額の平均値は 3350円、中央値は3278円となりました。つまり、3278円を提示したときに効用が等しくなります。また、平均値が中央値よりも高くなっていることから支払意思額が非常に高い回答者がいることもわかりました。
参加者のみの各金額の支払いに賛成する確率は、提示額が大きくなるにつれて回答者の効用が低下していきました。 ただし、3000円に対するYes 確率がかなり高かったです。
アンケートデータに基づく非参加者のロジット推定の分析結果では、やはり提示額の対数値 In(Bid) の係数の符号はマイナスであるので、このイベントは効用を増大させると同時に提示額の対数値が大きくなると回答者の効用が低下してYes 確率が低下することが分かりました。支払意思額の平均値は 3768円、中央値は 2549円と読み取れ、2549円を提示したときに効用が等しくなります。また、こちらでも平均値が中央値よりもかなり高くなっていることから支払意思額が非常に高い回答者がいることもわかります。
参加者のみの各金額の支払いに賛成した確率は、ここでも提示額が大きくなるにつれて、回答者の効用が低下していきました。
参加者と非参加者の CVM を比較すると、中央値は参加者が3248円なのに対し、非参加者は 2549円と700円ほど低くなっています。実際に参加して体験してくれた参加者はよりこのイベントを評価してくれているということがわかります。中央値と平均値の垂離が非参加者より、参加者の方が小さいことからも参加者がこのイベントを評価してくれているととれます。また、平均値は参加者 3350円に対し、非参加者 3768円と参加者の方が高くなっています。これは、実際に参加してみて支払意思額を考えた参加者と、企画のみを見て支払意思額を考えた非参加者の差です。参加者は今回のイベントに対する満足度からだったり、実際に発した際に必要な備品、人員、準備だったりをある程度わかったうえで金額を考えています。しかし、非参加者は想像で補わねばならない部分が多くあり、その点で中央値(効用)は参加者に比べて低くなってしまいます。しかし、企画を見て「このイベントで佐賀の活性化につながるなら」などという意見もあり、今後への期待を向けて大きな金額を提示してくれた非参加者もいたため、上記のような結果になったと考えられます。
考察
今回、我々は、佐賀の小さな観光名所を回ってもらい、ツアー参加者自身で佐賀の良いところを探してもらい、それをSNS で発信してもらうという自転車ツアーを企画し、イベントを開催しました。このイベントへの参加者と非参加者を対象としたアンケート調査を実施し、1) CVM によって支払意思額を求め、また、2)備品や、会場費、人件費などの実際にかかった費用を計算して、我々が企画したツアーの金銭的価値を計測しました。CVM による分析の結果、今回のイベントの支払意思額の平均値は3458円、中央値は 2859円でした。実際に参加した参加者だと平均値は3350円、中央値は 3278円と全体と比べると増加しています。このイベントをよりわかりやすく伝えることでこれらの支払意思額は増加するかもしれません。改めて、企画やターゲットを考える際にこれらのことを参考にしながら進めるとよいでしょう。費用の分析からこのままでは利益を得るのは難しいことがわかりました。しかし、参加者の満足度は5段階評価で平均4.1とかなりの高評価をもらっています。一度佐賀に来てもらい、なおかつ佐賀に興味をもってもらうことはとても大切なことです。また、SNS 調査からもわかる通りそれほどフォロワーの多くないアカウントであってもある程度の閲覧数が期待できることもわかります。このイベントは、情報発信を促すことにつながり、佐賀全体の広告効果も期待できるため、薄利で運営していく価値は十分にあると思われます。今回実施したイベントがいつか佐賀県名物の観光ツアーになり佐賀の発展に貢献することを期待します。
no2.
第3回駅北~よかFES・嘉瀬かかし祭りアンケート調査
イベント概要
このイベントでは、2017年10月29日に佐賀駅北口、11月1日~5日にかけて嘉瀬川河川敷で不特定の人に聞き取り調査形式でアンケートを集計した。70名分の回答を得ることができ、それに基づいてデータ分析を行った。
調査・研究目的
少子高齢化や人口流動が進む現代、共働きや集合住宅化といった生活の変化も相まって、住民同士の繋がりが希薄となり、地域コミュニティの参加率も年々減少しています。多くの地方自治体がその対策に走っており、佐賀市もその内の1つです。人と人との繋がりや思いやりといった地域交流(地域住民同士のコミュニケーション)を活性化させることは子どもの育成、セーフティネットの構築、地元への愛着心の強化などに繋がります。我々は佐賀市には地域交流の深化が必要だと考えました。
先行研究・事例
我々は実際に佐賀市内で地域交流イベントの運営を行っている佐賀駅北口の自治会と嘉瀬町の自治会の会長に話を伺いました。佐賀駅北口のふれあい町づくり実行委員会委員長の久米義治氏は、”少子高齢化に加えて親世代が共働きとなったことで自治会に加入することが少なくなり、その子供の世代も自治会に入らなくなるという加入率減少の構造が出来ている””と語りました。この対策として、ふれあい町づくり実行委員会は、3年前から街づくりイベントを実施しています。そのためのイベントである「第3回駅北く~よか FES」を催すことで、地域交流を図るとともに、佐賀発の人やモノを紹介することで、地元への愛着心の強化を目指しています。嘉瀬町の嘉瀬まちづくり協議会ふれあい文化部部会長の藤井英貴氏は“数値的な変化はまだ表れていないが少子高齢化の影響は感じている”と語りました。対策としては「子供をイベントの中心にする」ことをコンセプトに、イベントの運営や参加などで積極的に子供を関わらせていて、地元への愛着心の育成を目指しています。当然のことながら、こうした地元への愛着心の育成は、佐賀以外の地域でも行われています。我々が夏合宿で訪問した大分市の「府内戦紙」の例を紹介します。このイベントは1985(昭和60)年、大分商工会議所青年部が青森の「ねぶた」を参考に立ち上げた祭りで、初めは「大分七夕祭り」にみこし一基で参加するところから始まりました。最初は少数の企業が参加する小規模なイベントでしたが、規模が大きくなるにつれ参加団体が増え、現在では地域住民も参加できる大規模なイベントとなりました。現在では参加団体は 20を越え、観客も 25万人に達しています。このイベントは地域の重要な交流の場となっており、「子供戦紙」という子供がメインとなる企画を実施することで、子供時代から地域やイベント自体に対する愛着を育成しています。鈴木·藤井(2008)によると、地域愛着が高い人ほど、町内活動やまちづくり活動などの地域への活動に熱心であり、地域愛着の度合いが高いほど、地域内の活動について他者に依存する傾向が低いといいます。また、引地青木(2005)によると、地域愛着の形成には、地域住民の交流の促進、道徳的な教育、行政の評価の向上などによる「集団に対する肯定的な印象」の向上が最も重要であるといいます。我々は、「集団に対する肯定的な印象」の向上の手段として、地域交流イベントに着目しました。
「近所付き合い」と「イベントでの交流」について
図3は、「第3回駅北く~よか FES」での「隣近所の方とどの程度おつきあいをしたいか」の集計結果です。グラフを見ると「ほどほどに付き合いたい」という人が圧倒的に多いことが分かります。 また、 駅北く~よか FES という交流を目的としたイベントの参加者であっても「積極的に付き合いたい」という人は非常に少ないです。続けて図4の嘉瀬頼かかしまつりの同様の集計結果を見ると「く~よかFES」の数値と類似しており、この2つのイベントに参加する人は同じ傾向を持った人が集まっていたことがわかります。 また、「イベントやコミュニティ(クラブ サークル·習い事など)で人とつながることは好きか」の集計結果は両イベント共に 「好き」という人が8割程度であり圧倒的に多いものの、一方で「嫌い」という人も2割程度と、決して少なくはないことが分かりました。
AHP集計結果
第3回駅北く~よか FES での AHP 集計結を見ると日常的地域清掃よりも夏祭りを好む人が多く、評価基準においては「個人での参加しやすさ」と「コミュニケーション」の項目においては夏祭りを、「地域貢献」の項目においては日常的地域清掃を選択する傾向にあることが分かりました。また、「夏祭り」と「日常的地域清掃」の両方で「個人での参加しやすさ」が最も重視されていて、 「夏祭り」、 「日常的地域清掃」のどちらの項目においても 「個人での参加しやすさ」が最も高いことから、「個人での参加しやすさ」はイベントの形式に関わらず非常に重視されやすいポイントであることが分かりました。また、「日常的地域清掃」において「地域貢献」の割合が少し増えているものの「個人での参加しやすさ」の割合が大きく減ったことで合計値が「夏祭り」を下回っていて、このことからも「個人での参加しやすさ」というポイントがイベント選びにいかに影響しているのかがうかがえました。
考察
今回我々が調査をした2つのイベントは交流の深化、ひいては地域への愛着の育成のきっかけとして有意義であると感じました。一方で、イベントの参加者は交流そのものには好意的な意見が多いことがわかったものの、イベント自体には「個人での参加しやすさ」を重視しておりイベントに対して交流を重点的に求めてはいないことも分かりました。そのため、今後行っていくイベントでは「個人での参加しやすさ」を重視しやすい内容にすることを第一とし、交流や地域貢献は副次的な効果として狙っていくのが良いと思われます。まずは地域で行われるイベントで交流に少しでも触れてもらい、近隣住民や地域コミュニティの人々との交流に目を向けてもらえれば小さい交流が生まれ、ゆくゆくは愛着を生み出すような大きな交流へと繋がると私たちは考えます。