No.1
佐賀県におけるカーシェアリングの展望~学生を対象として意識調査~
研究目的
近年、世界中で MaaS(Mobility as a Service) 事業が急速に展開されている。これは人の移動を大きく変える新しい移動概念とされている。我々は、この MaaS の中で
も、カーシェアに着目し、株式会社 SEED ホールディングスと連携してアンケート調査を実施し、①仮想市場分析法 (CVM:Contingent Valuation Method) で支払意思
額を調査する。また、②CVM フルモデルで支払意思額の形成要因を分析し、どのような属性を有している人においてカーシェアの需要があるかを調査する。
先行研究
市丸 (2009) は、文献調査と事業者ヒアリングから、カーシェアの事業規模の小ささが日本におけるカーシェア普及のための課題であり、事業の大規模かつ高密度な
拠点展開を行うべきと提言している。また、仲尾 (2012)は、カーシェアの運用方式に着目し、使い勝手を支えている要因を検討している。結果、利用者にとって新しい
自動車利用の選択肢となり得るサービスレベルへの達成、ICT 技術、制度改正が求められると述べている。 以上を踏まえ、本研究では定量的データを用いて佐賀県におけるカーシェア普及のため回答者の属性に注目して調査を行う。
アンケート調査概要・CVM
アンケート調査は 2021 年 8 月 10 日 ( 火 ) に佐賀大学学生を対象に実施し、男性 148 人、女性 102 人の計 250人から回答を得た。
今回は佐賀大学内にカーシェアが導入された場合を想定し、「15 分当たりの料金」「6 時間パックの料金」「乗り捨て可能な 6 時間パックの料金」の 3 場面を用意し、3 パターンの異なる基準の金額設定した。
対数線形ロジットモデルを用いて推定を行い、「15 分当たりの料金」では平均値が 171 円、中央値が 133 円であった。「6 時間パックの料金」は平均値 3,373 円、中央値 2,771 円であった。「乗り捨て可能な 6 時間パック料金」は平均値 4,020 円、中央値 3,577 円であった。いずれも中央値が平均値より高くなっているため、高い支払意思額を持った者がいることが分かる。「乗り捨て可能な 6 時間パック料金」は、既存の 6 時間パックよりも支払意思額が高いため、一定程度の付加価値が望める。
CVM フルモデル
アンケート調査で得たデータを基に、支払意思額に影響があると推測される要因を CVM フルモデルに組み込み分析を行った。「15 分当たりの料金」では、「佐賀市内の移動手段が自転車」「ネットショッピング利用頻度」が正に有意、「車保有予定」「移動手段選択時に費用重視」が負に有意であった。「6 時間パック料金」「乗り捨て可能な6 時間パック料金」では、「クレジットカード保有」「インドア派」「運転好き」「移動手段が自転車」が正に有意、「車保有予定」が負に有意であった。解釈として、インドア派の人が遠出する際は車での移動を好んでおり、インドア派向けのプラン作成によって利用増加が望める。また、クレジットカード保有が大きく影響しているが、クレジットカードを保有する学生は 40% と半数以下であり、決済方法を多様化することで利用増加が望める。
アンケート調査概要
本研究では CVM で佐賀大学のカーシェアに対する支払意思額を計測し、CVM フルモデルで支払意思額の形成要因を分析し、カーシェアの需要を調査した。結果、佐賀大学学生の利用意向は低く、既存の料金以下で利用したい人が半数を占めている。一方で、乗り捨て可能の付加価値を付けることで対価としての支払意思額があることが分かった。
また、CVM フルモデル結果から、決済方法に PayPay 等の電子決済に対応させることで佐賀県のキャッシュレス化の推進につながる可能性がある。
最後に、カーシェアへの理解を深める事や、利用阻害要因を明らかにすることが、カーシェア普及、MaaS の推進につながると考える。
No.2
佐賀大学生を対象としたカーシェアリングの利用阻害要因に関する分析
イベント概要
イベント名称:「カーシェア体験会~チョイっと座ってみませんか~」
・日時:2021 年 10 月 13 日 ( 水 )
・場所:佐賀大学美術館前
・内容:1) カーシェアに関する動画視聴
2) カーシェア試乗、アプリでの伴の解除・施錠体験
3) 体験会に関するアンケートへの回答
研究目的
1 つ目の研究を踏まえて、カーシェア周知のためイベントを開催する。また、ロジスティック回帰分析を用いて①カーシェアの利用意向に影響を与える要因、②シェアリングサービスの経験有無に影響を与える要因を調査し、利用阻害要因を明らかにする。
先行研究
酒井 (2015) は、世界中のシェアリングサービスが急激に成長した要因、日本で普及が進んでいない要因を考察している。結果、日本人はシェアへの抵抗が強く、心理的要因が普及阻害要因に影響を与えてると述べている。
そこで、本研究ではカーシェア利用者の意識に注目し、利用阻害要因の調査を行う。
アンケート調査概要・ロジスティック回帰分析①
本研究ではイベント内にて佐賀大学学生を対象としたアンケート調査を実施し、男性 88 人、女性 65 人、その他 2 人、無回答 2 人の計 157 人から回答を得た。以下、ロジスティック回帰分析を用いて調査を行う。
モデル 1 では、被説明変数としてカーシェアの利用意向を設定した。結果、「カーシェア利用方法は簡単だと思う」が正に有意、「会員登録が面倒」「他人利用に抵抗感を感じる」が負に有意であった。よって、以下のことが検出される。
1) カーシェア利用方法が簡単であることは、利用意向を高める
2) 会員登録が面倒であることは、利用意向を低下させる
3) 他人利用に抵抗を感じることは、利用意向を低下させる
このことから、イベント開催や、消毒・清掃頻度を上げる、さらにそのことを PR することで、利用者増加が望めると考える。
ロジスティック回帰分析②
モデル 2 では、被説明変数としてシェアリングサービス利用経験の有無を設定した。結果、「個人情報流出に不安がある」が負に有意、「カーシェア利用方法は簡単だと思う」が正に有意であった。よって以下のことが検出される。
1) 個人情報流出に不安があることは、利用経験を低下させる
2) カーシェア利用方法が簡単であることは利用経験を増加させる
このことから、利用者を増やすには利用方法を実際に体験してもらうこと、サービス自体の安全性を PR することが重要であると考える。
まとめ
本研究ではロジスティック回帰分析を用いた分析で、カーシェアの利用阻害要因を調査した。結果、「カーシェア利用方法は簡単である」ことが利用意向を向上させ、「会員登録の手間」「他人利用への対抗感」「個人情報流出への不安」が利用意向を低下させる事が分かった。さらに、今回のイベントは学生がカーシェアの利便性を知るきっかけとなり、阻害要因を取り除く一つの手段と考察できる。
最後に、対象を全国に広げた研究が続くことで各地域に適した普及方法が明らかになるであろう。それらの結果を踏まえて、地方自治体や事業所が事業を行うことで、日本全体における MaaS の一環である、カーシェアの普及につながると考える。
No.3
女性活躍推進に関する調査研究~女性活躍推進への意識と就業継続の要因分析~
イベント概要
シンポジウム名称:「学生が女性活躍推進における男性の役割と仕事のやりがいを考える」~女性活躍推進に男性は関係ないと思っていませんか?~
・日時:2021 年 11 月 25 日(木)
・場所:佐賀大学教養大講義室・リモート
・内容:1) 基礎講演
2) アンケート分析結果報告
3) パネルディスカッション
4) まとめ
研究目的
本研究の目的は、1) 女性活躍推進への意識調査と就業継続に与える要因、2) 働く上での仕事のやりがいに与える要因を明らかにすることである。今回用いた分析手法は、1) ロジスティック回帰分析、2) パス解析である。本研究内容や結果を学生や社会人に共有し意見交換を行うために、佐賀大学にて学生や社会人を対象に「学生が女性活躍推進における男性の役割と仕事のやりがいを考える」というシンポジウムを開催した。
先行研究
(1) 男女の意識
杉田 (2010) によると、女性の理想が台形カ―ブ就労である社会人男女は「収入」「家事・育児」における配偶者との理想の役割分担格差が少ない。また、佐野・高田谷・近藤 (2007)によると、男子学生は性役割指向に関わらず理想の結婚相手に家庭的な面を求める傾向がある。このことから、性役割指向が収入や家事育児の役割分担に影響を及ぼしていることは分かったが、社会人と学生を同時に調査・分析している論文は存在しない。そのため、本研究では世代や属性で意識の差が生じるのかを比較分析したい。
(2) 就業継続の要因
杉田 (2010) によると、既婚女性は、就業継続の理由に「能力や技術を高められる仕事である」ことをあげていた。また山谷 (2015) によると、やりがいをもって仕事をしている女性は、出産時でも就業継続を選択すると考えられる。仕事のやりがいが就業継続に影響を与えている事は分かったが、やりがいについては詳述されていない。やりがいとなる事項を明確に捉え、学生が理想の働き方を想起しやすくなるために、社会人がどこでやりがいを感じるのかを調査する。
アンケート調査概要
本研究では、シンポジウム前にアンケートを実施した。対象は、本学の学生 2~4 年生と 20 代~40 代の社会人とした。
アンケートでは、学生と社会人に女性活躍推進の取組みを積極的に行うべきだと思うかを 3 段階で評価してもらい、ロジスティック回帰分析で女性活躍推進への考えに影響を与える要因を分析した。更に社会人には、現在の企業で働き続けたいと思うかを 4 段階で評価してもらった。加えて、現在の働き方や労働条件を 5 段階で評価してもらい、「仕事のやりがい」にどのような要因が関係しているのかをパス解析を用いて分析した。
ロジスティック回帰分析①
被説明変数を「女性活躍推進への取り組みを積極的に行うべきか」とし、1(YES) と 0(NO) の二値で設定した。そのうえで、説明変数には回答者の特徴を順次入れ込む変数増減法 ( ステップワイズ法)のもと回帰分析を行った。
学生の分析結果について、講座読書経験が多い、年齢が低い、育休取得を希望するという要因は、「女性活躍推進を積極的に行うべき」という被説明変数に影響を与えている。その中でも特に、年齢が低い、育休取得を希望するという要因は強い影響を与えている。
社会人の分析結果について、講座読書経験が多い、働く上でやりがいを重要視、女性活躍推進は進んでいないという要因は「女性活躍推進を積極的に行うべき」という被説明変数に影響を与えている。特に、女性活躍推進は進んでいないという要因は、被説明変数に強い影響を与えていた。
ロジスティック回帰分析②
被説明変数を「現在の企業で働き続けたいか」とし、1(YES) と 0(NO) の二値で設定し、説明変数には回答者の特徴を順次入れ込む変数増減法 ( ステップワイズ法 )のもと回帰分析を行った。
分析結果から、現在の企業で働き続けたいと感じる要因は現在の仕事にやりがいを感じること、仕事に見合った給与であること、自身が成長できることの 3 つであることが分かる。特に仕事に見合った給与であること、自身が成長できることが大きな影響を与えていた。
パス解析結果
パス解析では、各要因が仕事のやりがいに与える影響と、各要因同士の関係を明らかにするため、15 個の項目をパス解析モデルの変数として用い、モデルを構築し分析を行った。
働き続ける要因となっていた「やりがい」には、「同僚と協力」、「同僚に負けない」、「能力をいかせる仕事」が影響を与えており、勤務体制や産休育休制度といった制度は直接的な影響を与えていなかった。このことから、仕事のやりがいは協調性、向上心や競争意識、能力や技術力など個人に起因していることがわかり、仕事を長く続けるためには個人の努力が重要であると考えられる。
まとめ
ロジスティック回帰分析からは以下 5 つのことが分かった。
1) 学生 ( 男女 ) と男性社会人において、女性活躍推進が進んでいると感じている人は約半数だが、女性社会人は 4 割弱
2) 育休取得を希望する学生は多く、社会人でも利用したいと回答した人は多い
3) 学生・社会人同様に講座読書経験の多さが「女性活躍推進を積極的に行うべき」という要因に強く影響している
4) 女性学生は男子学生より働く上での制度を重視している
5) 働き続けたい要因には「やりがい」、「給与」、「成長」の 3 つが関係している
またパス解析より、「仕事のやりがい」には「自分の能力を活かせる仕事ができる」、「同僚と協力しながら仕事ができる」の 2 つが大きな影響を与えていることが分かった。
No.4
在宅勤務が佐賀県庁の職員の疲労に与える影響についての研究~在宅勤務が肉体的疲労、精神的疲労に及ぼす影響の分析~
調査・研究目的
在宅勤務は、労働者の負担を増やしてはいないだろうか。コロナ禍を契機に、新しい働き方としてテレワークへの注目が急速に集まっている。テレワークとは、厚生労働省によると「在宅勤務」、「モバイル勤務」、「サテライトオフィス勤務」の 3 つのテレワーク形態の総称である。その中でも、本報告書で焦点を当てた在宅勤務とは、所属する勤務先から離れて、自宅を就業場所とする働き方の事である。
本研究のテーマである在宅勤務に興味を持ったのは、オンライン授業を経験したことに起因している。大学生も新型コロナウイルスの影響で、ある種の在宅勤務であるオンライン授業を経験した。オンライン授業は、メリットとして、通勤時間の減少やそれに起因した自由時間の増加をもたらした。その一方で、デメリットとして、孤独感の増加、パソコンを使う機会が増加したことで、目や身体の疲れをもたらした。
本研究の目的は、選択式在宅勤務を導入している佐賀県庁の職員にアンケートを実施し、在宅勤務が労働者の肉体的疲労、精神的疲労に与える影響についてロジスティック回帰分析で明らかにすることである。なお、本研究での肉体的疲労は肩こりや眼精疲労、頭痛などの症状を指し、精神的疲労は不安感や気分が憂鬱などの心の疲れを表す。
先行研究
高橋他 (2015) によると、肉体的疲労は仕事多忙や過重労働、精神的疲労は人間関係の軋轢などに起因していることを示している。次に、上原他 (2013) が精神的疲労の原因は「仕事の負担」、「職場の人間関係」であることを示している。市川・本多・大橋 (2006) は、テレワークは、VDT 作業を増加させ、肉体的疲労や精神的疲労を感じる労働者が増加していると結論づけている。これらを踏まえて、在宅勤務は ICT を用いることで肉体的疲労、精神的疲労を増加させるのではないかと考えた。そこで、本研究では、ロジスティック回帰分析で肉体的疲労、精神的疲労と在宅勤務について分析する。
アンケート調査概要
本研究のアンケート調査は、2021 年 9 月17 日(金)~ 10 月 1 日(金)にかけて、佐賀県庁の職員を対象に、佐賀県総務部人事課行政経営室の協力のもと県庁のアンケートシステムによってオンライン調査を行い、1,228 件の回答を得ることができた。
本研究のアンケート調査には選択肢回答法を採用して、質問を設定した。
分析の結果
本研究では在宅勤務が労働者の肉体的疲労、精神的疲労に与える影響について調査した。ロジスティック回帰分析を使用し、肉体的疲労、精神的疲労に影響を与えている要因について分析を行った。
肉体的疲労の分析においては「平日の睡眠時間」が 1% 水準の負の有意、「仕事の忙しさ」は 0.1% 水準の正の有意、「運動不足」は0.1% 水準の正の有意となった。精神的疲労の分析においては「平日の睡眠時間」が 5%水準の負の有意、「仕事の忙しさ」は 0.1% 水準の正の有意、「相談」は 1% 水準の負の有意であった。
分析した結果、在宅勤務の頻度は肉体的疲労、精神的疲労に影響を与えていなかった。また世帯構成などに因果関係はなかったが、仕事の忙しさには因果関係が存在し影響度も強いため、疲労は家庭環境ではなく仕事環境に影響があるのではないかと推測した。
そこで仕事の忙しさに在宅勤務が与える影響について調査した。結果、「在宅勤務の可否」に 0.1% 水準の負の有意がついた。 このことから在宅勤務を行える環境を整えることは仕事の忙しさを減少させることが分かった。
まとめ
本研究では、在宅勤務が、肉体的疲労、精神的疲労に与える影響について明らかにした。
肉体的疲労、精神的疲労ともに在宅勤務頻度ではなく、仕事の忙しさが影響を与えていることが明らかとなった。また、その仕事の忙しさには、在宅勤務可否が影響を与えており、在宅勤務が可能な環境ほど、仕事の忙しさが減少することがわかった。
分析結果と私たちのオンライン授業の経験から、地方公共団体の職員 1 人当たりの仕事量が増加している現状の解決策のひとつとして DX があるのではないかと考える。DX 化できない事例もあることを念頭に置き、利用者のニーズに沿って判断し有効的な DX を行うことは、有効的な手段になると思う。