No.1
交通行動に関する調査研究
-自転車ながら運転への意識とその要因分析-
研究目的
本研究の目的は、「自転車ながら運転への意識や行動に与える要因」を明らかにすることである。全国的な課題でもある「自転車のながら運転」の様な自転 車交通マナーの悪さは、佐賀大学内やその周辺でも見かける機会が多い。交通安全への理解を深めるとともに、パネルディスカッションを通した意見交換を行うことを目的に、佐賀大学にて「見て聞いて自転車ながら運転の危険性~みんなで考える佐賀の交通全安全~」というシンポジウムを開催した。
先行研究
⑴交通マナーと県民性の比較
治部・山口・蓮花(2017)は、香川県と他県のドライバーの安全意識における地域性を探っており、香川県では、講習種別間の差がみられるドライバーが他県と比べて極端に多いことが明らかとされている。このことから、香川県のように突出して運転マナーの悪い県、あるいは、特定の交通事故・トラブルの起こりやすい地域には、特徴があることが確認できる。
⑵ルール・マナー認知
中嶋・山中・真田(2014)は、シティサイクル 利用者と比較して、スポーツサイクル利用者の方が自転車のルール・マナーに対する意識が高いということを示している。このことを参考に、研究の焦点を「自転車のながら運転」という特定のマナー違反と 佐賀県・福岡県の高校生の意識比較という2 点に絞ることにしたい。
⑶道路交通状況
大谷(2009)は、実験参加者を募り、運転シミュレータを用いてドライバーの運転行動を評価することを目的に観測値を分析した。見通しの良い道路では、急な交通状況の変化は生じ難いと予想のもと、ドライバーは危険度を小さく評価している。
これらの先行研究より、道路環境が与える運転行動への影響分析や事故発生に起因する道路環境を明らかにすることは重要であると言えるだろう。
イベントの詳細
・イベント名称:「見て聞いてながら運転の危険性 ~みんなで考える佐賀の交通安全~」
・日時:2022 年 12 月 7 日(水)
・場所:佐賀大学農学部大講義室
・内容:1)基調講演 「SAGA BLUE PROJECT 活動紹介」
2)アンケート分析結果報告
3)自転車危険運転 VR 体験会
4)パネルディスカッション
アンケート調査と分析
本研究では、佐賀県の高校生、福岡県の高校生、佐賀大学生の 3カテゴリーを調査対象としたアンケート調査を実施した。本研究のアンケート調査では、選択肢回答法を用いて普段の自転車利用に即した項目、マナー遵守や自転車ながら運転への考えについて主に四件法で聞いた。「自転車ながら運転に対する意識」と「自転車ながら運転の経験有無」に与える要因を探るべく、ロジスティック回帰分析を用いて分析した。
ロジスティック回帰分析にあたって、目的変数を①「自転車 のながら運転は絶対にしてはいけないものだ」②「自転車ながら運転をした経験がある」とした。①は四件法で聞き、「絶対にしてはいけないものだ」を 1(YES)、「少しならしてしまっても良い」と「してしまっても問題はない」と「特に意識したことがない」を 0(NO)の二値で設定した。②は三件法で聞き、「やったことがある」を 1(YES)、「やったことはない」、「特に意識したことがない」を(NO)の二値で設定した。
分析結果①
表6から、佐賀県の高校生は、周囲の人間がながら運転に反対している、交通量が少ないときはながら運転は許される、ながら運転は危険という意識が、目的変数である「自転車のながら運転は絶対にしてはいけないものだ」に影響を与えていることが分かる。
表7から、福岡県の高校生は、周囲の視線が気になりマナー違反することに抵抗がある、ながら運転は危険であるという意識、周囲の人にながら運転をしてほしくない、という要因が、目的変数である「自転車のながら運転は絶対にしてはいけないものだ」に影響を与えていることが分かる。
一方、佐賀大学生では、「通学路に走りやすさを感じる」で負に有意という特徴 が見られた。通学で使用する道路は走りやすいと感じることで、走行に油断が生まれ、多少のながら運転をしてしまっても問題ないという考えに繋がっているものと解釈できる。
分析結果②
表8から、佐賀県の高校生は、周辺道路の走りやすさ、音楽を聴きながら自転車を運転することが好き、という要因が、目的変数である「自転車ながら運転の経験有無」に影響を与えていることが分かる。
表9から、福岡県の高校生は、音楽を聴きながら自転車を運転することが好き、という要因や周辺道路の走りやすさが、目的変数である「自転車ながら運転経験の有無」に影響を与えていることが分かる。
佐賀大学生に関しては、交通量の少ないときならばながら運転は許される、という要因が強い効果を持っていることが明らかとなった。
さらに3 つのカテゴリーすべてにおいて「音楽を聴きながら自転車に乗ることが好き」で正に有意であるという特徴が見られる。ワイヤレスイヤホンの 普及により、自転車に乗りながらであっても音楽を聴きやすくなったことが起因していると推測する。
まとめ
分析結果より、佐賀県の高校生と福岡県の高校生の特徴について 3つのことが分かった。
1つ目に、佐賀県の高校生・佐賀大学生は、福岡県の高校生と比較して「ながら運転は絶対にしてはいけないものだ」という認識が低いことである。
2つ目に、すべてのカテゴリーにおいて、「音楽を聴きながら自転車に乗ることが好き」である人ほど自転車ながら運転経験割合が高いということだ。
3つ目に、佐賀県の高校生は、福岡の高校生と比較して、ながら運転をしたことがある人が圧倒的に多いことである。
ここまで、佐賀県と福岡県で分析結果の比較を行い、自転車ながら運転への意識や行動に与える要因分析を行ってきた。2 県でながら運転に対する意識や実行要因は異なるという結果となった。特に、佐賀県では「道路の走行容易度」、福岡県では「周囲からの見られ方」 を意識する傾向があることが大きな違いだと分かった。
今回開催したシンポジウムでは、交通安全への理解を深めることを目的に、佐賀県での交通安全に対する取り組みの紹介等を実施した。約 30 人の方々に参加していただいた。パネルディスカッションなどを通じて、交通安全だけでなく、自動車教習、保険、公共交通など の視点から「佐賀県の交通安全」に関わるお話をいただき、ご参加いただいた方々に対して 自分事として捉えるきっかけづくりを提供することができたのではないだろうか。今回のような、一人ひとりが交通安全と向き合うことができるイベントによって、交通事故減少に寄与できるなら幸いである。
No.2
コミュニケーション能力が仕事に与える影響
-IT企業営業職従事者の営業成績や社内の関係性に与える要因分析-
研究目的
本研究の目的は、1)社会人が仕事で重視する能力、2)コミュニケーション能力の共通性、3)社内の人々との関係性に影響するコミュニケーション能力、4)営業成績に影響するコミュニケーション能力を明らかにすることである。今回用いた分析手法は、1)階層分析法(AHP:Analytic Hierarchy Process)、2)因子分析、3)、4)重回帰分析である。
先行研究
(1)コミュニケーション能力の分類
藤本・大坊(2007)は、関西地方の大学生を対象に調査を実施し、コミュニケーション・スキルの階層構造化とその検証を行った。その結果、自己統制・表現力・解読力からなる基礎スキルと自己主張・他者受容・関係調整からなる対人スキルの階層構造をとるENDCOREsモデルという体系を示している。
(2)営業成績と個人特性の関係性
織田(1982)は、営業・販売職従事者を対象に「営業・販売職適性テスト(豊原・本明、1979)」を用いた検査を実施し、営業・販売職の実務成績と人格特性との関係性について調査している。テストから得られた人格特性のうち、意欲度、自信度、社交性、従順性の4項目と実務成績の間に特に密接な関係が示されている。
(1)、(2)を踏まえて、本研究ではIT業界の法人向け営業職従事者のコミュニケーション能力が、営業成績と社内の人間関係に与える影響について分析を行う。
イベント詳細
・イベント名称:「IT企業から学ぶ『聴く力』!~文系学生が培うコミュニケーション能力~」
・日時:2022年12月8日(木)
・場所:佐賀大学理工学部都市大講義室
・内容:1)アンケート分析結果報告
2)企業紹介・仕事紹介
3)パネルディスカッション
4)まとめ
アンケート調査
本研究では、イベント前に法人向け営業職従事者を対象としたアンケート調査を実施した。
アンケートでは、営業部門と技術部門で「聴く力」、「話す力」、「知識量」のうちどの能力を重視するかの一対比較をしてもらい、階層分析法(AHP)で部門ごとに重要視する能力を分析した。次に、仕事上でコミュニケーションを円滑に行っていると思うかを4段階で評価してもらい、顧客と社内の2つの場面に分けて、コミュニケーション能力に関する因子を探る因子分析を行った。最後に、社内の人間関係を4段階で評価してもらった。加えて、目標受注金額の達成率を数値で回答してもらい、重回帰分析で人間関係や営業成績に対するコミュニケーション能力の影響について分析した。
因子分析①
営業職従事者が顧客に対して活用するコミュニケーション能力の共通性を探り、分類するため、15個の項目を変数として用い、因子分析を行った。
分析結果より、「傾聴傾向」、「自己表現傾向」、「説得傾向」、「関係維持傾向」の4つの因子がみられた。
因子分析②
営業職従事者が社内に対して活用するコミュニケーション能力の共通性を探り、分類するため、15個の項目を変数として用い、因子分析を行った。
分析結果より、「臨機応変傾向」、「発信傾向」、「素直傾向」、「関係維持傾向」の4つの因子がみられた。
顧客・社内に対するコミュニケーションについて比較したとき、共通する因子として「関係維持傾向」があり、他の因子には違いがみられた。また、顧客・社内のどちらにも、因子を構成する項目は違うが、発言を重要視する傾向、傾聴を重要視する傾向がみられた。
重回帰分析①
被説明変数を「社内における良好な関係性」、説明変数を「会話主導権」、「感情表現」、「気持ち理解」、「意見対立対処」とし、社内の人との関係性に影響するコミュニケーション能力に関して重回帰分析を行った。
分析結果より、「会話主導権」や「感情表現」といった話す力に加え、「気持ち理解」といった聴く力や想像力を有している人は「社内の人と良好な関係を築くのが得意だと思う」傾向にあることが分かった。
重回帰分析②
被説明変数を「目標受注金額の達成率」、説明変数は、「講習会経験」、「会話主導権」、「意見対立対処」、「考え理解」とし、営業成績に影響するコミュニケーション能力に関して重回帰分析を行った。
分析結果より、業務上必要な知識を習得するための「講習会経験」がある人ほど、「目標受注金額の達成率」が高くなる傾向にあることが分かった。一方で、「会話主導権」、「意見対立対処」、「考え理解」などコミュニケーション能力に関する変数はいずれも有意ではなかった。その一因として、収集できたデータ数が少なく、傾向を掴めなかったことが考えられるだろう。
まとめ
因子分析からは以下のことが分かった。
1)顧客では聴くことを重視する「傾聴傾向」が見られた。社内では傾聴傾向の項目に加え、「相手から自分の意見に納得してもらうよう柔軟に対応する」項目が見られた。
重回帰分析からは以下の2つのことが分かった。
2)営業職では「会話主導権」、「感情表現」、「相手の気持ちを理解」の力を持つほど、社内で良好な関係を築けると感じる人が多い。
3)入社後自発的に講習会や勉強会に参加した回数が多いほど、目標受注金額を達成する傾向にある。