No1
SAGATOCOを用いたまち歩きイベントの調査研究
ー大学生の健康意識と歩数増加の要因分析ー
<研究目的>
本研究の目的は、まち歩きイベントが参加者の健康に対して有意な効果をもたらすことを分析により明らかにすることである。まち歩きイベントに対する満足度や歩く習慣などが、歩数増加にどのような影響を与えるかをアンケートにて調査し分析する。分析により、イベント終了後の参加者が、「日常的に歩数を増加させたい」と思う傾向にあることが明らかにできれば、継続的なイベントの企画やSAGATOCOの普及が大学生の健康増進に有効なアプローチであることが証明されると考える。最終的には、大学生が日常生活で歩くことを習慣化することで、20歳から下がる基礎代謝が上がり、将来の生活習慣病や肥満の予防に繋げることを期待する。
<先行研究>
(1)大学生の健康や運動に対する意識
小泉・上島(2016)は、大学生に健康教育を効果的に進めることを目的として、大学生377人を対象に、2015年12月から4ヶ月間、健康への関心度、自身の健康状態、健康阻害要因、健康に関する知識などについてアンケート調査を行った。簡易集計の結果から、大学生は自分自身の健康についての関心度は高い一方、自身の健康状態がそれほどよいとは感じておらず、体調不良により身体的変化が現れたときは、睡眠や薬を飲むといったセルフケアで対応する学生が多いことを示している。
相沢・斎藤・久木留(2014)は、体力の低下が問題視されている若年層の運動習慣の実態調査および運動の動機付けアプローチの方策について検討することを目的としている。大学生272名を対象に、運動の習慣化、運動の必要性、体力・健康状態などについてアンケート調査を行った。簡易集計の結果から、多くの大学生は運動の重要性を認識しているが、運動の習慣化までには十分に至っていないことを示している。また、青少年の体力低下は運動習慣や身体活動量が大きく関係しており、体力低下を改善するには、運動の習慣化に向けた対策を講じる必要があると示している。
(2)まち歩きイベント
海野(2013)は、2013年3月29日から31日にかけてまち歩きイベント「長崎さるく」が定着している長崎市で、長崎市民を対象にWebアンケート調査を行った。その目的は、まち歩きの実態把握、普段の徒歩での移動やまち歩きイベントと地域愛着の関係性、まち歩きイベントの参加者の傾向を把握することである。回答者は、長崎さるく経験者200人、長崎さるく未経験者200人の合計400人であった。因果関係の仮説を検証するための分析手法である共分散構造分析により、普段からまち歩きをすること、普段の移動に徒歩を選択すること、長崎さるくに参加することが地域愛着を高めるという因果関係が示された。地域愛着醸成のために、普段からまち歩きを行うことや「長崎さるく」のようなまち歩きイベントを取り入れていくことが、まちに対する関心を高め、地域への積極的な関与に繋がっていくことが示唆された。
豊田・服部・岡本(2017)は、諏訪地区における地域住民をまち歩きイベントの参加者、商店主をまち歩きイベントの協力者として動員し、まち歩きイベントが住民や商店主のまちに対する意識にどのような影響を与えるかを調査した。この研究では、2013~2015年にかけて年1回、すごろくを用いたまち歩きイベントを行った。簡易集計の結果から、まち歩きイベントへの参加を通して、地域住民のまちに対する認知向上の効果、あるいは、商店主が意識的にまちづくりに協力するという主体性の醸成の効果を確認した。
<イベント概要>
イベント名称:歩こう大学生!~佐賀をサガしてトコトコSAGATOCO~
日時:2023年10月21日(土) 場所:佐賀駅周辺
内容:SAGATOCOアプリのダウンロード・佐賀駅周辺のまち歩きイベントの開催
<アンケート調査概要と分析結果>
本研究では、アンケート調査を2回実施した。1回目は、2023年9月30日(土)にサンメッセ鳥栖都市広場にて開催された、佐賀県健康福祉部健康福祉政策課主催の「謎解きエコミステリーチャレンジ」で調査を行った。2回目は、2023年10月21日(土)に佐賀駅南口から佐賀城方面をスポットとした大学生向けのまち歩きイベント「歩こう大学生!~佐賀をサガしてトコトコSAGATOCO~」を本研究室で開催し、調査を行った。どちらのイベントもSAGATOCOの機能の一つである、スタンプラリー機能を用いたまち歩きイベントであり、イベント終了後の参加者の方に、アンケート調査への回答をお願いした。調査内容は、参加者にイベントを通して日常の歩数をどれくらい増加させたいと思ったか、自動車の利用を控えたいと思ったかなどを4段階で評価してもらうことで、イベント参加者の健康に対する意識の変化を調査した。また、イベント満足度においても同様に4段階で評価してもらった。さらに順序ロジスティック回帰分析やパス解析で、これらの意識にどのような要因が影響を与えているのかを分析するために、普段の平均歩数や移動手段などの質問項目を設けた。アンケート調査は、紙媒体の調査票への記入とMicrosoft Formsへの電子媒体を通じた入力の2つの方式で実施した。最終的に1回目は201人、2回目は37人、合計238人から回答を得ることができた。
分析結果➀(ロジスティック回帰分析):表3は、被説明変数に「歩数増加意思_順序」を設定した推定結果である。表3の着色部分は有意であった説明変数を示している。「性別」のPは0.0223となっており、5%水準で有意であることが分かる。「満足度」のP値は0.000、「自動車利用頻度低減意思」のP値は0.000となっており、0.1%水準で有意であることが分かる。このことから、性別やイベント参加後の満足度、「健康や環境のために車の利用を控えたい」といった要因は、「歩数増加意思」という被説明変数に影響を与えている。その中でも特にイベント満足度が高く、車の利用を控えたいという要因は「歩数増加意思」という被説明変数に強く影響している。
分析結果➁(ロジスティック回帰分析):表4は、被説明変数に「自動車利用頻度低減意思」を設定した推定結果である。表4の着色部分は有意であった説明変数を示している。「満足度」のP値は0.0454となっており、5%水準で有意であることが分かる。「歩数増加意思」のP値は0.000となっており、0.1%水準で有意であることが分かる。このことから、イベント後の満足度や「日常的な歩数を増加させたい」といった要因は「自動車利用頻度低減意思」という被説明変数に影響を与えている。その中でも、特にイベント参加後の日常的な歩数を増加させたい気持ちが強いという要因は「自動車利用頻度低減意思」という被説明変数に強く影響している。
分析結果➂(ロジスティック回帰分析):表5は、被説明変数に「満足度」を設定した推定結果である。表5の着色部分は有意であった説明変数を示している。「自動車利用頻度低減意思」のP値は0.0135となっており、5%水準で有意であることが分かる。「歩数増加意思」のP値は0.000となっており、0.1%水準で有意であることが分かる。 このことからイベント参加後の「日常的な歩数を増加させたい」、「健康や環境のために車の利用を控えたい」といった要因は「満足度」という被説明変数に影響を与えている。その中でも特にイベント参加後に「日常的な歩数を増加させたい」という要因は「満足度」という被説明変数に強く影響している。
分析結果④(パス解析):直接効果を見てみると、「満足度」は「歩数増加意思」と「自動車利用頻度低減意思」に影響を与えていることが読み取れる。パス係数から、「歩数増加意思」は「自動車利用頻度低減意思」に比べ強く影響を受けていることが分かる。また、「歩数増加意思」は「自動車利用頻度低減意思」に影響を与えている。普段の歩数を増加させたいと強く思うことは、車の利用を抑制することに繋がっていくと考える。間接効果を見てみると、「満足度」は「歩数増加意思」を媒介し、「自動車利用頻度低減意思」に影響を与えていることが読み取れる。イベント満足度が高い人ほど、日常での徒歩に対する関心が強くなる。その結果、車の利用を控えることで日常での歩数を増加しようとするのではないかと考える。「満足度」、「歩数増加意思」、「自動車利用頻度低減意思」の3つの変数の関係性について適切なモデルが見えてきた。「満足度」と「歩数増加意思」が高いことは「自動車利用頻度低減意思」に繋がり、「満足度」が「歩数増加意思」を媒介して「自動車利用頻度低減意思」に影響していることが分かった。
<まとめ>
本研究の目的は、SAGATOCOのようなウォーキングアプリを用いたまち歩きイベントで、参加者が健康に対して有意な効果をもたらすのか調査することであった。アンケート調査をもとに順序ロジスティック回帰分析とパス解析を用いることで、参加者の健康意識を表す指標に影響を与える要因を調査した。以降は、本研究で得られた分析結果をまとめたものである。次に、適切なモデルを把握するために実施したパス解析の結果より、イベントの「満足度」が「歩数増加意思」を媒介して、「自動車利用頻度低減意思」に影響していることが示された。このことから、イベントに満足した参加者は、普段から歩きたいと思う傾向にあり、車の利用を控えようとすることが考えられる。また、パス解析を踏まえた順序ロジスティック回帰分析の結果より、「歩数増加意思」には「満足度」が、「自動車利用頻度低減意思」には「歩数増加意思」がそれぞれ強く影響していることが示された。この分析結果は、パス解析の結果と一致しており、モデルがより適切であることが示されている。また、「満足度」には「団体参加」、「九月平均歩数」ともに有意性は見られなかった。この分析結果からは、1人で参加しても家族や友達と参加しても十分満足できるイベントであることが読み取れる。さらに普段の歩数に関係なく参加者がイベントを楽しめていることも読み取れる。これは参加者が自分に合ったコースを選べるためであると考える。上記の分析結果より、イベントの健康に対する有効性は十分に示されたと考える。イベント参加をきっかけに、日常の移動で徒歩の選択や車の利用を控えようとすることを明らかにできたため、継続的なイベントの企画が大学生の健康増進に有効なアプローチであることが証明できたといえる。また、まち歩きイベントに参加する際は、必ず「SAGATOCO」をインストールしなければならない。これにより、日常でもアプリを使用してもらうことで参加者の健康を期待できる。
No 2
公共交通利用促進調査研究
ー九州MaaS推進における佐賀県の公共交通利用の要因分析ー
<研究目的>
本研究では、九州各県で行われているMaaS推進をさらに有効なものにしたいと考えた。本研究では、佐賀県における幅広い年代層の日常と非日常の移動手段選択要因分析を行うことは、誰もが利用しやすい持続的な移動サービス提供につながるという点で意義があると考える。
<イベント概要>
イベント名称:九州MaaS×佐賀大学生~もっとみんなにたくさんの移動手段を~
日時:2023年11月8日(水)場所:佐賀大学経済学部5号館2階
内容:基調講演・学生によるアンケート分析報告・パネルディスカッション
<研究目的>本研究では、九州各県で行われているMaaS推進をさらに有効なものにしたいと考えた。本研究では、佐賀県における幅広い年代層の日常と非日常の移動手段選択要因分析を行うことは、誰もが利用しやすい持続的な移動サービス提供につながるという点で意義があると考える。
<先行研究>
(1)日常と非日常における移動手段
梶田・田中(2023)は、観光における非日常性とアプローチ面(観光地への距離、交通利便性、費用)との関係を定量化することを目的とし、近畿圏在住者を対象に2回のアンケート調査を実施し、GISを用いた分析を行った。観光地へのアプローチが困難であるほど非日常性を感じやすくなるという仮説のもと分析が行われ、非日常性の高さと交通利便性の低さとの関連性が示唆された。また、居住地に近い空間では日常的観光地が多く存在し、遠い空間では非日常的観光地が存在しているということが述べられている。さらに、都市部と地方部での日常・非日常の考え方の違いが存在する可能性が考察された。亀山(2019)は、佐賀県在住のアクティブシニアを対象に 3 回のアンケート調査を実施し、多項ロジット分析を用いて、日常と非日常における移動手段の選択と身体活動量の関係性について明らかにした。自家用車と運転免許を持たず、日常的に運動とウォーキングの習慣がある回答者は日常的な買い物を徒歩で済ませる、あるいは、徒歩と自家用車・バスを組み合わせる傾向になると述べられている。旅行等の非日常においては、健康意識と関連づけた散策ダミーを設定し、分析を行った結果、大都市では散策を徒歩で行い、地方都市では自動車を選択する傾向にあることが示されている。
(2)MaaS関連
大山・轟・柳沢(2023)は、長野市善光寺御開帳の来訪者を対象に実施したアンケート調査をもとに、交通に関する情報や個人属性が各交通手段の選択にどのような影響を与えているのか分析した。また、MaaSを実装する際にどのような情報を提供することが望ましいかをロジスティック回帰分析を用いて明らかにしている。マイカー・公共交通間の選択において、公共交通の選択には、観光地までの所要時間やパークアンドライド実施情報が影響を与えていることが明らかとなった。さらに、情報入手のタイミングによって交通手段の選択が左右されることも述べられている。
<アンケート調査概要と分析結果>
本研究のアンケート調査では、佐賀県内の高校生、佐賀大学生を調査対象とした。佐賀県内の高校生を対象にしたアンケート調査は、8紙媒体とGoogle Formsを用いて実施した。佐賀大学生を対象にしたアンケート調査は、Google Formsを用いて実施した。さらに、9月30日にサガン鳥栖の公式戦に合わせてイベント参加者を対象にGoogle Formsを用いてアンケート調査を実施した。また、マクドナルド店舗においてもGoogle Formsを用いてアンケート調査を行った。同時に、佐賀県庁職員を対象Google Formsを用いてアンケート調査を行った。これらのアンケート調査の結果、高校生642人、佐賀大学生187人、一般の方97人の合計962人分の回答を得ることができた。
分析結果➀(多項ロジスティック回帰分析):表5の着色部分は有意であったものを示している。公共交通における「通学時間」のP値は0.000 となっており、0.1%水準で有意であることが分かる。次に、「通学日数」は0.016であり、5%水準で有意であることが分かる。さらに、「運動への興味」は 0.06 であり、10%水準で有意であることが分かる。最後に、「環境への興味」は0.043であり、5%水準であることが分かる。また、自動車における「通学時間」のP値は0.000となっており、0.1%水準で有意であることが分かる。これらのことから、「通学時間」、「通学日数」、「運動への興味」、「環境への興味」という要因は「大学生の通学手段の選択(公共交通)」という被説明変数に影響している。また、「通学時間」という要因は「大学生における通学手段の選択(自動車)」 という被説明変数に影響している。最後に、係数の大小から考察する。「運動への興味」という要因は係数が1.869 であり、優位になっている説明変数の中で最も大きい値である。よって、「大学生における通学手段の選択(公共交通)」という被説明変数に強く影響している。
分析➁:表6の着色部分は有意であったものを示している。自動車における「自家用車保有」のP値は0.003となっており、1%水準で有意であることが分かる。このことから、「自家用車の保有」という要因は「大学生における通学手段の選択(公共交通)」という被説明変数に影響している。
分析➂:表 7 の着色部分は有意であったものを示している。公共交通、自動車ともに「免許の保有」のP値は0.035となっており、5%水準で有意であることが分かる。このことから、「免許の保有」という要因は「一般における県内観光での交通手段の選択」という被説明変数に影響している。
分析④:表8の着色部分は有意であったものを示している。公共交通、自動車ともに「時間を重視」のP値は0.055となっており、10%水準で有意であることが分かる。このことから、「時間を重視」という要因は「一般における県外大都市の観光での交通手段選択」という被説明変数に影響している。
<まとめ>
本研究の活動の目的は、九州MaaS推進における佐賀県の公共交通利用の要因分析を行うことであった。日常・非日常の2つの観点から実施した多項ロジスティック回帰分析の結果から、日常においては、通学時間や通学日数といったライフスタイル在り方が移動手段の選択要因に影響しているということが示された。この分析結果を踏まえて、以下の考察を行うことができる。日常においては、第一に公共交通を身近に利用できる環境であるか、第二にライフスタイルの在り方が日常的な選択要因と関係しているのではないかと考える。マイカーに頼らざるを得ない地域においては公共交通利用を積極的に行うことや、既存のサービスを活かしたものを提供することは比較的困難である。また、年齢や居住地による制約を受ける場合も多く見られた。佐賀県内における日常的な公共交通の利用促進を行うためには、既存のサービスが充実している地域から行うべきではないだろうか。日常的な利用促進を行うことと同時に既存のサービスについて官民が連携し、見つめ直す必要があると考える。次に、多項ロジスティック回帰分析の結果から、非日常においては県内観光では免許保有や自動車保有有無が移動手段の選択要因に影響しているということが示された。また、県外観光については時間を重視するかどうかが移動手段の選択要因に影響していることが示された。この分析結果を踏まえて、以下の考察を行うことができる。非日常においては、県外観光の際に移動手段として公共交通を提供し、県外観光の公共交通利用経験を活かした県内観光における車から公共交通の移動手段のシフトを行うべきであると考える。佐賀県は九州各県と比較してマイカーに依存したライフスタイルとなっている。そのような人へ対して、公共交通の利用を促すことは簡単なことではない。しかし、県外観光においては、公共交通を利用せざるを得ない場合が存在する。その際の公共交通の利用経験を活かした、利用促進を行うべきであると考える。佐賀県内における公共交通の利用促進は、九州各県の企業・団体との連携が必要となってくる。これは九州全体でのMaaS普及活動にも意義があるのではないかと考える。
No 3
九州佐賀国際空港の利用促進に関する調査研究
ー地方空港におけるプロモーションが利用意向に与える影響の要因分析ー
<研究目的>
本研究では、『航空旅客動態調査』より明確な佐賀空港の利用状況を知るとともに、佐賀空港の利用意向を高める要因を明らかにしたいと考えた。これらを踏まえて、後述の要領で佐賀県多久市と福岡県みやま市の市民を対象としたアンケート調査を行い、そこで得たデータをもとに計量分析を行う。また、佐賀空港と福岡空港の航空運賃を比較した調査と、有明海沿岸道路の敷設による車アクセスの改善から、空港の利用意思に与える影響の要因分析を行う。一連の分析を通じて、佐賀空港が行っている施策が支払意思に繋がっているのかを明らかにしたい。
<イベント概要>
イベント名称:これからの九州佐賀国際空港を考える~佐賀県及び福岡県南西部のマイエアポートとなるために
日時:2023年11月21日(火)場所:佐賀大学教養教育大講義室
内容:基調講演・学生によるアンケート分析報告・公開討論会
<先行研究>
1)空港アクセスの改善が与える空港利用意向の変化
李・今田(2013)は、国土交通省が2010年に実施した『全国幹線旅客純流動調査』のデータをもとに、新幹線と航空機の交通時間比と利用者比の関係を表すモデルを構築し、広島空港のアクセス時間短縮が航空利用に及ぼす影響を推計した。この結果から、JR広島駅、JR呉駅、JR三次駅から空港までのアクセス時間が短縮することで、新幹線に対する航空需要の増加率が上昇することが示されている。また、東広島自動車道路や松江自動車道などの自動車専用道路の整備が、空港圏域拡大に大きな影響を及ぼしていると述べられている。森本(2019)は、2015年の『航空旅客動態調査』の個票データを対象とし、条件付きロジット(CL:Conditional Logit)モデルを使用し、福岡空港と北九州空港の空港選択に与える影響について推定した。その結果から、アクセス時間の短縮や便数が、空港選択に有意な影響を与えていることを示している。また、CLモデルの推定結果に基づいて、アクセス時間と便数増加の効果についてシミュレーションを行った。その結果、アクセス時間の短縮によって、北九州空港から福岡空港への旅客の流出が減少していることが示されている。
(2)国内線の航空運賃
航空運賃を調査した研究として、岸・佐藤(2002)がある。岸・佐藤(2002)は、エア・ドゥの参入前後での航空利用者の意識の変化を分析することを目的に、ロジット型価格感度測定法(KLP:Kishi’s Logit PSM)を用いて東京-札幌間の航空運賃の評価分析を行った。具体的には、1998年の参入前と2000年の参入後における新千歳空港の航空機利用者を対象に意識調査を実施した上で、評価分析を行っている。分析結果から、エア・ドゥの参入前後で、航空運賃に対する価格感度に大きな違いがないことを示している。また、利用者が値ごろ感を持つ運賃は安定していることを明らかにしている。
<アンケート調査概要と分析結果>
本研究では、佐賀空港の利用状況をより明確化するために、アンケート回答の対象地域を佐賀県多久市と福岡県みやま市に設定し、対象者を2つの市の18歳以上の性別を問わない全居住者に設定した。対象地域を多久市とみやま市に設定した理由は、どちらの地域も佐賀空港から半径25㎞圏内に位置しており、1時間以内に佐賀空港には車で、福岡空港には車または公共交通機関で両方移動できる地域であるためである。実際のアンケート調査では、多久市でMicrosoft Formsと調査用紙、みやま市はMicrosoft Formsのみで実施した。アンケート調査を2023年8月25日~9月13日にかけて実施し、多久市で799名、みやま市で263名、合計1,062名の方々から回答を得ることができた。
分析結果➀(重回帰分析):表4の着色部分は係数値が有意に検出されたるものを示している。「駐車場料金」のp値は、30代以下で0.017、50代で0.012、60代で0.032となっており、5%有意であることが分かる。次に、「便数」のp値は50代で0.006となっており、1%有意であることが分かる。「リムジンタクシー認知」や「マイエアポート宣言認知」のp値は、60代で0.001、0.045となっており、「リムジンタクシー認知」は1%有意、「マイエアポート宣言認知」のp値は5%有意であることが分かる。そして、「空港到着時間」のp値は30代以下で0.007となっており1%有意、40代は0.011で5%有意であることが分かる。また、「みやまDM」のp値は、30代以下で0.024となっており5%有意、50代は0.007で1%有意であることが分かる。これらの分析結果から、佐賀空港が魅力としている駐車場料金については、多くの人が支払意思額に正の影響を与えていることが確認できた。これに対して、佐賀空港が利用促進のために取り組んでいるリムジンタクシーやマイエアポート宣言は、支払意思額に影響していないことが確認できた。便数は、50代のみ支払意思額に負の影響を与えており、佐賀空港の便数の少なさが、支払意思を低下させていることが分かる。空港到着時間は、40代以下で正の影響を与えており、空港内の移動のしやすさが支払意思を高めていることが分かる。みやまDMは、30代以下、50代で支払意思額に負の影響を与えていたことから、みやま市の回答者が、多久市の回答者よりも佐賀空港への支払意思が低いことが分かる。
分析結果➁(パス解析):図8は、みやま市の回答者のアンケートデータに基づいたパス解析の結果をパス図に描いたものである。まず、「ビジネス利用」と「子供同居」が「所要時間」に正の影響を与えている。仕事で利用する時や、子供と移動する時には、移動に時間を掛けたくないと考えていることが分かる。次に、「所要時間」は「便数」を介して、「WTP」に負の影響を与えている。このことから、時間という観点で便数を重視する人は、佐賀空港への支払意思が低下し、福岡空港の利用に流れているのではないかと考える。そして、「運転頻度」や「所要時間」は、「車アクセス」や「駐車場」を介して、「WTP」に正の影響を与えている。このことから、車での移動が当たり前となっている人や、時間を気にする人は、空港へ移動する際に車で移動したいと考え、佐賀空港の無料駐車場という魅力があることで、支払意思が高まることが分かる。また、「来佐頻度増」は、「沿岸道路効果」を介して、「WTP」に正の影響を与えている。このことから、有明海沿岸道路の開通で佐賀に行く頻度が増加した人ほど、空港の利便性を実感し、支払意思が高まっており、車を使った空港アクセスの良さを認識してもらうことが、利用促進に繋がるのではないかと考える。
分析結果➂(パス解析):図9は、多久市の回答者のアンケートデータに基づいたパス解析の結果をパス図に描いたものである。みやま市の回答者の分析結果と同様に、「子供同居」は所要時間に正の影響を与えており、子供と移動する際には、短時間での移動を望む人が多いのではないかと考えられる。「所要時間」と「家族車保有」は、「車アクセス」や「駐車場」を介して、「WTP」に正の影響を与えている。このことから、家族が車を保有しており、車での移動に不便を感じない人や時間を重視する人ほど、佐賀空港の利用に繋がりやすいのではないかと考える。
<まとめ>
本研究の目的は、既存の調査より明確な佐賀空港の利用状況を知るとともに、計量分析によって、佐賀空港の利用意向を高める要因を明らかにすることであった。重回帰分析の結果から、佐賀空港の大きな魅力である無料駐車場は、ほとんどの世代で佐賀空港の支払意思額の向上に影響を与えていることが示された。一方で、空港が利用促進の一環として行っているマイエアポート宣言やリムジンタクシーは、ほとんどの世代で支払意思に影響を与えておらず、認知度向上を含めプロモーションが行き届いていないものと考えられる。次に、パス解析の結果から、時間という観点で便数を重視する人は佐賀-羽田便の支払意思額が低く、空港到着までの移動を重視する人は支払意思額が高くなることが分かった。また、有明海沿岸道路を利用して佐賀を行き来する人ほど、車アクセスの利便性を実感し、支払意思が高まっていることが分かった。このことから、佐賀空港と福岡空港を比較した際、空港到着までの移動にメリットを感じている人に対するアプローチが効果的ではないかと考えられる。 ここまでの一連の調査・研究から、今後の佐賀空港の発展に向けて、以下の2つの視点が重要だと考える。1つ目の視点は、プロモーションの面である。図3a、図3bで示したように、マイエアポート宣言やリムジンタクシーの認知度が低いことから、佐賀県が行うプロモーションがターゲット層に十分に行き届いていないことが分かった。今後は、これらの認知度向上が必要であるが、佐賀県と福岡県という県境を跨いでプロモーション活動を行い、利用意向を向上させるには高いハードルがあり、プロモーションの手法で工夫が必要だと考える。また、佐賀県はビジネス目的で空港利用頻度が高い40代をプロモーションのメインターゲット世代としているが、重回帰分析では、空港到着時間以外で有意な結果を得ることができなかった。アンケート調査の標本に偏りがある可能性は残るが、その意味でも、今後は、40代のニーズを明らかにすることが重要だと考える。 2つ目の視点は、車アクセスの面である。有明海沿岸道路は佐賀空港の利用意向を高めていることがGISとパス解析から示された。今後の車アクセスに関するプロモーションでは、有明海沿岸道路非利用時と利用時のアクセス時間の差を取り上げ、時間短縮効果を示すことが重要だと考える。佐賀空港を一度も利用したことがない人に対して、佐賀空港を利用するまでは実感できない車アクセスの利便性を伝えられるようなプロモーションを行うことが重要だと考えた。また、パス解析の結果を踏まえると、有明海沿岸道路を利用して佐賀県を何度も訪れてもらい、有明海沿岸道路の利便性を実感し、佐賀県に親しみを持つことで、最終的には佐賀空港の利用に繋げるプロセスも重要だと考えた。